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放影研ではこんな研究をしています

放射線被ばく線量の推定

物理学的推定
原爆放射線被ばく線量推定方式が考案され、被爆者一人一人の被爆時の位置や遮蔽状況に関する情報に基づいて個人の被ばく線量値が推定されるようになりました。現在の線量推定方式は2002年に導入されたもので、DS02と呼ばれています。これは最新の核物理学の理論に基づいて組み立てられたもので、収集したレンガや瓦などの被ばく試料を測定して得た結果と合っています。

爆心地 から 約2km以内にいた被爆者の個人線量情報は、1950年代後半から1960年代前半にかけて行われた面接調査によって得られた詳細な遮蔽歴(建物や山の陰で放射線がさえぎられたことの記録)に基づいています。爆心地からの距離が 2kmより遠方で被爆した人の線量推定は、質問票に寄せられた回答に基づいているため、遮蔽歴は面接調査によって得られた情報ほど詳しくはありません。現在、調査集団全体で 約10万人の被爆者がいますが、そのうち 92%の被爆者の被ばく線量推定値が得られています。また爆心地から 2km以内の近距離で被爆した人の 約80%について線量推定値が得られています。被ばく線量の推定値が得られていない被爆者は、遮蔽による影響を正確に評価できない(例えばコンクリートの壁などによる)ためです。

線量推定値には、考慮すべきたくさんの要素があるために不正確なところがあります。被ばく時にどの地点にいたか必ずしも正確に分かるわけではありませんし、物陰にいてどのように放射線からさえぎられていたか、すべての点を詳しく説明することは不可能でしょう。原爆から放出されたエネルギーや、放射線の性質に関する幾つかの技術的な問題は、推測するしかありません。一般的には、線量推定における確率的誤差は約±35%だと言われています。このような確率的誤差がリスク推定に及ぼす系統的な影響を少なくするために、特殊な統計手法が開発されています。

平均的な日本家屋内で被爆した場合、放射線量はここに示した値のほぼ半分に減少します。
図. 爆心地からの距離と空中線量(すなわち、遮蔽のない状態)との関係
DS02(2002年線量推定方式)による
原爆放射線のほとんどはガンマ線でしたが、中性子の成分も少しありました。長崎では、この中性子成分はほとんど無視できる程度ですが、広島ではそれより幾分多かったようです。中性子はガンマ線よりも単位線量当たりの生物学的効果が大きいと考えられているため、グレイ(Gy)を単位とするガンマ線量に中性子線量の10倍を加えて、重み付けした総線量が多くの解析で用いられています。こうすれば、純粋なガンマ線量(単位:重み付けしたグレイ、Gy)が利用できて、他の調査結果との比較に都合がよいのです。

DS02によって15種類の臓器のガンマ線と中性子の線量が推定できます。これらの臓器線量は、上記の被爆者の周囲(体外)の遮蔽状況と共に、被爆者の被ばく時の体の向きや位置を考慮した身体そのものによる臓器の遮蔽状況も計算に入れています。胃がんなど部位別のがんを解析するときはそれにふさわしい臓器線量が用いられます。
生物学的推定
血液細胞および歯エナメル質には、原爆放射線の影響が記録されていて、現在でも測定できます。
放射線被ばく量を測定する生物学的な推定方法
方 法
必要な試料
特 徴
リンパ球における染色体異常
血液2cc
被ばく後60年たっても可能
リンパ球におけるTCR突然変異
血液1cc
被ばく後数年以内のみ可能
歯エナメル質におけるESR
抜去歯
被ばく後60年たっても可能
血液細胞を用いる方法
放射線が細胞の遺伝物質(DNA)に傷をつける点に着目したものです。それは、原理的にはある特定の遺伝子の働きが損なわれたもの(突然変異細胞)でもよいし、細胞が分裂する際に観察される 染色体に生じた異常 でもよいわけです。ただ、このような異常は放射線でしか生じないというものではなく、細胞が分裂を繰り返すと、ある一定の割合で自然にも起こります。従って、これらの異常細胞の割合は、普通は年齢と共に増加してきます。この増加の仕方には個人差があるので、高齢の人の場合には、若い人と違って、個々人の間に大きな差がしばしば見られます。このことは、少量の放射線の影響を調べる場合に大きな障害となります。また、細胞にはDNAに生じた傷を治す能力があります。そのため、同じ量の放射線であっても、原爆のように瞬時に被ばくした場合(急性被ばく)と、チェルノブイリ事故後の汚染地域に住む人のように長期にわたって少しずつ放射線を受ける場合(慢性被ばく)とでは、瞬時に受けた場合の方が影響が大きいという違いもあります。とは言え、このようなDNA傷害を測定することは、他の指標と併せて考えることにより、放射線被ばく線量の推定に役立っています。
歯エナメル質を用いる方法
最近になって、歯エナメル質に残された ラジカル を測定する方法も大変有用であることが分かってきました。この場合には、抜けた歯からエナメル質を分離して、電子スピン共鳴(ESR)という方法でラジカル量を測定します。ラジカル量は、受けた放射線の量に比例しますので、逆にラジカル量が分かれば、放射線の量が求められるのです。この方法では急性被ばくでも慢性被ばくでも同じように合計の放射線量が求められますので、チェルノブイリ事故被ばく者の線量評価に大きな期待が寄せられています。